多様体はまず点集合からスタートする。単なる点集合には、点同士の関係は一切明らかにされていない。ただ点が集められただけで、その中から特別な点を選ぶ方法は存在しない。例えば球面を考えてみよう。原点から距離にある数空間の点を集めたものが点集合としてのである。もちろん、我々はに関して原点を中心として半径の球面を思い浮かべているのであるが、もし単にという点集合の中身を除くなら、そこには単に数の組が集められているのが見えるだけだ。
次にこれに位相構造を付加することで、位相空間とする。これによって少なくとも、ある点に対して他の点が「開近傍に含まれている/含まれていない」という関係を語ることが出来るようになる。構造を与えることで、点同士の関係について議論が可能となるわけだ。
ここでさらにチャート、そしてアトラスという、多様体構造を付加する。これによって、少なくとも局所的には点へ座標を割り当てることが可能となる。座標が割り当てられていれば、詳細に点を指定することが可能となる。それによって、位相構造だけでは定義出来なかった概念が定義できるようになる。例えば微分というのは、点を座標を使って指定し「動かす」ことで変化を測るという操作が可能であって初めて意味を持つ概念である。
しかし、ここで重要なのは、我々が多様体の性質として認めるのは、チャートの取り換えに対して不変なもののみである。これは多様体の前提である。つまり、座標の取り換えによって変わる性質は多様体の性質と見なさないというアイデアから来る。それは結局、座標系が指定されるべき「幾何学的実体」が存在するという直感に由来する。つまり、「特別なチャート」が存在しないという考え方である。もちろん、相手にしている幾何学的実体によって、特別なチャートを選ぶことが可能な場合もある。例えば数空間は恒等写像という特別なチャートを選ぶことが出来る。しかしこれはに備わっている別の構造を用いた結果であって、一般の多様体について使えるものではない。
微分の定義を座標の取り換えに対して不変に意味を持つようにするためには、チャート間の座標変換の可微分性を仮定しなければならない。ここで微分構造が必要となる。こうして得られるのがいわゆる「滑らかな多様体」あるいは「可微分多様体」という概念である。この多様体上では微分が座標系によらない意味を持つことが出来る。つまり、その上で微分が出来る多様体というわけだ。